第2話 地獄のパンダ食堂

老人は依然としてこちらにゆっくりと近づいて来ていた。
逃げようとするがドアは開かない。このままでは全員がここで死を迎える事になってしまう。

ガタガタ、ガタン!!

半ば無理矢理扉を外そうともがくが、無駄な努力であった。
もう駄目か!?そう思った時、老人が口を開いた。
「いらっしゃい…ククク…何にするかい?」
みんな椅子にゆっくりと座りはじめる…。我々はもう、覚悟を決める事にしたのだった。

「カレーあるよ…クク…モツ煮ラーメンもあるがどうするかね?」
老人は、壊れかけたマリオネットのような自由の利かない動きで我々に問いかける。
どれも不気味なメニューばかりだ…
しかし我々は腹をくくり、ひとつづつメニューを注文したのだった。

相も変わらず不気味な動きをしながら料理の準備に取りかかる老人。
冷蔵庫からレバーを取り出すと、鈍い輝きを放つ古い包丁で乱切りにし始める…
今度は鍋を火にかけ、多量の油を投入。
まだ暖まっていないその中に、ニラとレバーを適当に放り込んだ…
…な、なんて恐ろしい料理なんだ!!…

…完成

「ま、まずは私が食べてみよう…」
隊長がおもむろにニラレバを口にほおばる。
「た、隊長…大丈夫ですか!?」
「うっ!…ぐ、ぐはぁッァァァァァァ!!!」
ガシャアァァァァァァン!!!
そう叫んでひっくり返ると、なにかに取り憑かれたように店のガラスを砕き、外に跳び出していった。
「ウオォオオオオオォオォォォォォォ〜!!!!……」

「た、隊長…俺たちは…」
絶対に触れてはならないパンドラの箱に手を出してしまった、と言いたかったが、
我々だけではここをどうすることもできない。そもそも生きて帰れるのか。
私はもう何かを口に出す気力すら奪われていた。

「おまちどお…チャーシュー麺だよ…カツカレーもね…」
不気味な声で現実に引き戻される。
隊員の前に、チャーシュー麺が運ばれていく。
割り箸を割る。
具を食べる。
麺をすする。
という一連の動作を、私はただただ見つめていた。
「ん?ラーメンなら…いける!おおこれなら食

そこで彼の思考、動作、反応全てが停止した。箸にはかじりかけのチャーシューが…
「おい、どうした!おい!!」
向こうではカレーを口に含んだまま隊員が白目をむいていた。他の隊員が必死で声をかけている。
修羅場…これはこの世の地獄…。
「さぁ次はカキフライ定食だ」
老人は邪悪な笑みを浮かべながら牡蠣を油に放り込む。すでに揚げてあるカツもついでに入れる。
同時進行で、カツ丼用の小さな鍋を用意した。
牡蠣を揚げ終わると、油をまったく切らずにそのまま皿の上へ。
同時に揚がったカツをカツ丼用鍋に入れ、蓋をする。
そしてこちらを向いて「ニヤリ」と笑うと勢いよくコンロの火をつけた!

ヴォォォォォォォォォォォォォッ!!!

ものすごい音とともに、鍋が地獄の炎に包まれた!
「うわっ!もう見たくない…」
隊員の一人がそうつぶやくが、老人は嬉しそうに業火を見つめていた。
「カツ丼とカキフライ定食はできた。次は誰だ?」
一瞬の間の後、老人の視線がこちらに向いているのに気が付く。
「次はお前だ…」
私は全身の血が凍り付いた。
…確か私が注文したメニューは「モツ煮ラーメン」だったはずだ…。
「フフフ、待たせたね…」
そんなバカな!?作り始めて5分と経っていないじゃないか!!

今、私の目の前には「パラレルワールド」がある。多分、片道切符。
食べたら逝ける。新しい世界へ。
私は…
心の中で十字を切り、ゆっくりと箸で麺をつまみ上げた…





「はっ!!」
気が付くと我々は食堂の外にいた。
「大丈夫か?」
我々はどうやら生きていたらしい。
次々と他の隊員も起きあがり始めた。
こんなところはすぐにでも逃げるべきだ。私はそう考えていた。しかし…
(フフフ、よく生きて私の食堂から出られたものだ…)
恐ろしい声が頭の中に直接響く。
「奴だ!!」
我々はすぐに体勢を立て直すと、その場から逃げ出した。
(逃げられんよ…お前達の体には私の呪いがかけられている…)
「呪い?」
気付くのが遅すぎた。我々の体には食堂の空気が染みついていたのだ!!
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
全員がばたばたと倒れていくのが目の端で見えた気がした。
だめだ。意識が…急に……遠のいて………
(決して逃がれられぬ…私の呪縛からは……)

<終末>
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